March 23, 2004

アフロディーテ誕生の地

愛と美の女神・アフロディーテ。英語名「ビーナス」。ギリシャ神話の神々のなかでもっと名前の知られた女神でしょう。その誕生を描いたのが、ボッティチェルリの『ビーナスの誕生』。イタリア・フィレンツェのウフィッツィ美術館の至宝のひとつです。この絵はあまりに有名です。この絵の舞台、つまりビーナス誕生の地とされているのが、キプロス島パフォス近郊のペトラ・トゥ・ロミウ海岸。この海岸はアフロディーテ誕生の地として観光地化しているそうです。

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しかし、アフロディーテ誕生の地とされる場所はもうひとつあるのです。ペロポンネソス半島の南にあるキスィラ島の、さらに南に浮かぶ小さな島アブゴ島。「アフロディーテ誕生の地はいったいどちら?」ということで、ギリシャ神話にあたったところ、次のような記述。

大いなる天(ウラノス)は夜を率い愛欲に満ちた大地(ガイア)の上に横たわりその全身を覆った。そのとき彼の息子のクロノスは待ち伏せの場から左手をのばし右手に巨大な鎌をとり父親の男根を一気に切り落とし、後方へ放り投げた。

波の打ち寄せる海原へ投げ飛ばされた男根は長い間漂っていたやがてその不死なる男根の回りに白い泡(アフロス)が湧きたちその中から一人の乙女が生まれ、育った。乙女はまずキテラ島へ、さらにキプロス島へ渡った。この美しい女神が島にあがると、その足元からは若草が生い茂った。神々も人間も彼女を泡(アフロス)から生まれたアフロディテと呼んだ。

ヘシオドス『神統記』

これをもとに、やはりすべての始まりは「誕生」なのでという順序を考え、「誕生の地=アブゴ島(キテラ島沖の小島)」「上陸の地=キプロス」考えるようになりました。つまりキプロスに「アフロディーテ誕生の地」を語る資格なしと。しかし、その後、神話にはいろいろなバリアント(異説)があるので、どっちも誕生の地でいいかもと考えるようになり。それこそ、「小野小町の墓」が日本中にあるようなものかなと。こんな感じで、なんとなく自分なりの結論を出すことをあきらめていたところ、思いついた解釈。

まず、アフロディーテが海を漂ったこと。「海」は「水」。生命がはぐくまれるのは「羊水」そして「母」。そういえば、フランス語で「母」を指し示す単語「la mère」は「海=la mer」を含んでいます。「海」と「母」という漢字の関係もそうですね。これでアフロディーテが海を漂った様子が何のメタファーか説明がつきます。続いて、「誕生」という言葉を考えたところ、「受胎」の瞬間も「出産」の瞬間も、「誕生」という言葉をあてることができます。もっと言えば、人生において「生まれ変わる」といえる時期は何度でもありえることを考えれば、「誕生」という言葉が使われるのは一度だけではない。ということで、アブゴ島もキプロスのペトラ・トゥ・ロミウ海岸も、どちらも「アフロディーテ誕生の地」。これが私の結論です。

この解釈はよるべき学術資料のない、勝手な個人的なものですが、神話のおもしろさは、こういった「多様な解釈」のおもしろさなのではないでしょうか? そして、それがゆえに多くのバリアントも生まれてくると思っています。学生時代、宗教学・宗教歴史学を専攻した私の、超極私的神話「アフロディーテの誕生」解釈です。

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