November 08, 2004

変わる客引き ─ プラカを歩いて

アテネに滞在するたびに、アクロポリスには行かないのだけど、プラカには必ず行っている。ニキス通りからキダシネオン通りに入り、アドリアヌ通りをモナスティラキまで歩いて戻ってくるというのが大体のパターン。キダシネオン通りからアドリアヌ通りはプラカの目抜き通りで、アテネを訪れる観光客が必ずといっていいほど歩く通りである。通りの両脇には、みやげ物店や貴金属店、かばん店、そしてタベルナが軒を連ねている。もちろん、ほとんどすべてが観光客目当ての店。多くの店が客引きをやっているし、こちらから店に入ろうものなら、飛んで火にいる夏の虫にもなりかねない。観光客を相手に商売している通りだから仕方がないと言えば、そのとおりだ。一方で、ちょっとしたおみやげ品を探すため、食事をするためには店が揃っているので便利と言えば、そのとおりだ。

13年前に初めてアテネを訪れ、プラカを歩いたときには半ば嫌気がさした。どの店でも客引きが「こんにちは、こんにちは」と日本語で声をかけてくるのだ。「タコ、イカ、おいしいよ」と客引きをしている プサロ・タベルナのおじさんには本当にうんざりだった(とはいえ、この7年後の1998年10月、まったく同じ台詞で同じおじさんが客引きをしているのを目撃して、少しばかりほほえましい気分になったのだが)。そして、この状況は、前回の2002年の旅行まであまり変わらなかった。

ところが、今回は少しばかり様子が違うのだ。お決まりのコースを歩いて掛けられる台詞は「你好」。中国人と思っているのだ。
日本人観光客がそれほど訪れない地方では、黄色い肌=中国人というヨーロッパ人が持ちがちなステレオタイプが残っている。ナクソス島で「Chino」と言われたことがある。しかし、さまざまな国からの観光客を迎えているアテネの、しかもプラカで中国人と思われるとは、あまり予想していなかった。客引きのあいさつが「你好」になったもうひとつの背景は、中国の経済発展だろう。ギリシャ・アテネのプラカで、成長する中国を間接的ながら感じたわけだ。そういえば、中国人が経営する店も、あちこちで見かけるようになった気がする(まあ、自分は、イギリス・チェルトナムのバス停では香港人から「中国人か?」と言われ、キャセイ・パシフィック航空の機内では客室乗務員には「香港人か?」と言われ、ベオグラードの空港では台湾人に「台湾人か?」と聞かれるぐらい、中華系の顔立ちをしているようだから仕方がないかもしれないが……)。

中国経済は着実な成長を続け、海外に出る中国人はいっそう増え、プラカの店先ではあちら「你好」と東洋人に声をかける客引きが増えるのだろう(経済予測を元に言ってはいないが、日本の高度経済成長からも、そしてバブルからも学び、同じ轍を踏むことはない、それが中国人のしたたかさだ)。しかも、残念ではあるが、ギリシャという国は、イタリアやフランスといった国に比べると、「日本人の観光地」としてはその人気に劣っている。2004年こそ、オリンピック効果でギリシャを訪れる日本人は増えたそうだが、G.N.T.O(Greek National Tourism Organization)で発表されている統計を見れば、日本人のギリシャ離れが見て取れる。

さらに、これから日本は少子化に立ち向かっていかなければならない。人口の上で日本がマイノリティになれば、ギリシャを訪れる日本人はいっそう減っていくだろう。日本人どころか、日本という国があるということさえ知らないギリシャ人が増えてしまうのではないかと漠然と思っている。
果たしてこれからの日本、ギリシャはおろか、世界でもこのまま国際的地位なるものを確立できずに終わってしまうのだろうか。そう思うと、かなりさびしくなったのである。

Categories