January 21, 2005

こんな旅行をしてみたい ─『クレタ、神々の山へ』

書店で本を探していて楽しみなことがある。夢中になって読んだ小説の著者が書いた、ギリシャの紀行文を見つけることだ。
たとえば、『スティルライフ』『マシアス・ギリの失脚』の池澤夏樹の『ギリシアの誘惑』。氏とギリシャの関係は、映画通には常識だが(アンゲロブロス映画の字幕)、もともと映画には疎いので、この本を見つけたときはかなりうれしかった。『蛍・納屋を焼く』や『風の歌を聴け』の村上春樹もそう。『ノルウェーの森』のあとがきには、「ギリシャに滞在しながら一気に書いた」ということが書いてあったが、この直前からの滞在を描き、ミコノス島のトマス・バーを一躍有名にしたことでも知られる『遠い太鼓』もまたその一冊。『遅すぎた春』『金閣寺』の三島由紀夫には『アポロの杯』がある。

最近見つけたその手の本は、『クレタ、神々の山へ』。映画にもなった 『ホワイトアウト』の著者・真保祐一のクレタ島トレッキング紀行である(NHKBS1で放映された「トレッキング・エッセイ紀行」をもとにしたものなので、この番組を見た人はあまり説明は必要ないかもしれない)。イーディー山、ニダ高原、サマリア渓谷、パクネス山など日本ではあまり知られていないトレッキングコースとその自然、そして、著者とスタッフの悪戦苦闘がいきいきと描写されている。それだけでもおすすめなのだが、この本に描き出された旅は、「まさにこれこそ旅」と言えると思っている。

西岡文彦氏(版画家・評論家・多摩美術大学特別講師)は、「編集には時間的な編集つまり文脈の操作と、空間的な操作があり(中略)、旅行の計画立案などの作業には、まさにこの時間と空間にまたがる編集の醍醐味がある」と言われている(『編集の学校』 宝島社 1991年)。充実した旅は、時間的、空間的な編集がしっかりしているのである。『クレタ、神々の山へ』に描き出された旅はその空間的編集において群を抜いている感じた。ネタバレになるので書かないけど、最後のトレッキングコース、パクネス山の頂上で、著者はその旅の醍醐味を余すことなく表現している。その表現力は『ホワイトアウト』で実証済み。一度お試しあれ。

Categories