
鉄道ファンにはいろいろなタイプがあるそうだ。「見る」「乗る」「乗りつぶし」「時刻表」「車両」「研究(鉄道史や廃線)」「写真」「切符」「収集(車両部品から駅弁の包み紙まで)」「模型」、そしてこれらの複合タイプ。自分も鉄道は好きだし、実のところ、小学校高学年から中学校のときは、当時の国鉄がやっていた「いい旅チャレンジ2万キロ」というキャンペーンで国鉄路線踏破を目指したり、今は見かけなくなった硬券の切符を集めたりしたこともある。大学生時代にヨーロッパを旅行したときは、ユーレイルパスを使って鉄道で移動していたし、なによりも、はじめての海外旅行はシベリア鉄道だ。旅が好きだから鉄道が好きになったのか、鉄道が好きだから旅が好きになったのかはわからないが、 この二つは当たり前のように切り離せない。
切符(拡大)
いくつかタイプのある鉄道のたのしみ方だけど、自分にとっての一番の楽しみは、何といっても車窓。車窓から風景を眺めながらその風景の中で暮らす人の生活やその土地のことをいろいろとを想像したりする。鉄道ファンのタイプで言えば、「乗る」だろう。そんな自分がギリシャの鉄道に初めて乗った。ルートはアテネ~コリントス。自分はコリントス遺跡が目的地。パートナーはコリントス運河が目的だった。コリントスを訪れるなら、ミケーネやエピダウロス、ナフプリオンなどとセットになった一日バスツアーもあるが、今回はぜいたくに一日をコリントス観光だけに使うことにした。

アテネの国鉄の駅は二つ。テサロニキ方面に向かう電車や国際列車が発着するラリッサ駅と、ペロポンネソス半島に向かうペロポンネソス駅。もちろん、コリントス方面はペロポンネソス駅から。方面ごとに駅が違うのはヨーロッパの都市ではよくあることだし(もともと、日本だって、東京駅は東海道方面、上野は東北方面の汽車が発着する駅だった)、このことはガイドブックでなんどか読んだことがあった。だが、地下鉄の駅を出たときにはすっかりこのことを忘れ、ラリッサ駅に向かってしまった。チケットを買おうと時刻表を見たがコリンソス方面行きの電車が見つからず、インフォメーションに聞いたら線路の向こうの「ペロポンネソス駅に行け」と言われた。

ペロポンネソス方面への電車は1時間に1本程度。所要時間は約2時間弱で、運賃は約3ユーロぐらい。正午ぐらいにペロポンネソス駅を発つ電車に乗ってコリントスに向かう。電車がアテネの市街を抜け、エレフシナの駅を過ぎると、電車はサロニコス湾を眺めながらメガラ方面にひたすら西に。サロニコス湾にはサラミナ島が浮かび、大小の船が行きかっているのが見える。エレフシナ、サラミナ、メガラ。古代ギリシャ史を彩った地名ばかり。しかし、エレフシナもメガラも駅は小さい。メガラを過ぎると、海岸線にへばりつくように電車は走り、眼下には海が広がる。車窓からは初夏の陽光。線路沿いには色とりどりのポピーが咲き乱れる。パートナーと交代に窓側の席を陣取り車窓を眺めていたら、窓の広い席に座っていたおばさんが「こちらのほうがもっと景色がよく見えるよ」と声をかけて、席を譲ってくれた。おばさんも窓の外の景色に見とれていたのに……。こうやって旅の人をもてなしてくれるギリシャ人が大好きだ。

コリントス到着が近づいてきたと思ったら、パートナーが楽しみにしていたコリントス運河の上をあっと言う間に通過。パートナーは写真で想像が膨らみすぎていたせいか、その大きさにちょっとがっかりしたそうだ。自分は1991年に一般道からこの運河を眺めたが、当時の記憶よりもやっぱり小さく感じた。ローマ皇帝ネロの時代にさかのぼるコリントス地峡開削。その歴史ゆえ、写真では大きく感じ、さらに記憶の中でも大きなものになってしまうのだろうか。しばらくすると、ペロポンネソス半島の入り口・コリントスのランドマーク、アクロ・コリントスが見え、コリントス駅に到着。

初夏のやわらかい日差し、花の咲き乱れる線路沿い、歴史の舞台となりながら今はひっそりとする町、ゴトゴト走るディーゼル車。のどかなギリシャを満喫できた、安くてぜいたくな旅だった。またいつか同じ初夏に、ペロポンネソス半島のもっと奥まで鉄道で旅してみたいな……。真夏は……、多分日差しが強すぎて、車窓を楽しむどころではないかも……。花も咲いていないだろうし……。